獣医師アドバイス

2026.09.10
2026.09.09

犬の去勢手術の費用はいくら?相場・助成金・メリットとデメリットを獣医師目線で解説

愛犬の去勢手術を検討し始めると、まず気になるのが「結局いくらかかるの?」という費用面ではないでしょうか。加えて、「本当にうちの子に必要なのか」「デメリットはないのか」といった不安もあるはずです。

去勢手術の費用は、動物病院や愛犬の体格によって幅があり、「必ずこの金額」と言い切れるものではありません。また自治体の助成金・補助金制度は全国一律ではなく、地域によって実施状況が大きく異なるのが実情です。

この記事では、費用相場の考え方から自治体の助成制度の実態、そして獣医療の観点から見たメリット・デメリットまで、去勢手術を検討する飼い主さんが判断材料にできる情報を整理してお伝えします。

この記事を書いた人

植田 紗妃

東京都出身。臨床獣医師として動物病院勤務。趣味は勉強、筋トレ。幼い頃から愛犬とドッグランで走ることが大好き。ブリタニースパニエル2頭とソマリ1頭と暮らす。

歳をとって、お散歩したいけど長距離歩けない子にとって優しい一手。暑い時は扇風機と日傘を、寒い時は電気毛布を入れて今までより快適なお散歩にしたい。過ごしやすい日はレジャーシートやおやつを入れて好きなタイミングでピクニックをする。

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1. 犬の去勢手術とは

去勢手術とは、雄犬の精巣(睾丸)を摘出する外科手術のことです。全身麻酔下で行われ、多くの場合は日帰りもしくは1泊程度の入院で済みます。

去勢手術は法律で義務付けられたものではなく、繁殖の予定の有無や、愛犬の性格・健康状態、飼育環境などを踏まえて、飼い主が獣医師と相談してメリット・デメリットを理解した上で決めるものです。

2. 犬の去勢手術の費用相場

去勢手術の費用は、動物病院ごとの料金設定や、術前検査の内容、そして愛犬の体格によって差があります。一般的な傾向として、体重が重い犬種ほど麻酔薬の量や手術時間が増えるため、費用も高くなりやすいといわれています。

体格別の費用イメージ(目安)

体格 費用の目安(術前検査込み)
小型犬・中型犬  5−6万円程度(麻酔代、器具代、検査代…)
大型犬 小型・中型犬より高め

※上記はあくまで一般的な傾向を示す目安であり、実際の金額は動物病院や地域によって大きく異なります。正確な費用は、必ずかかりつけの動物病院に事前に見積もりを確認してください。

追加費用が発生するケース

以下のような場合は、基本料金に追加費用がかかることがあります。

  • 潜在精巣(精巣が正常な位置に下りていない)で、通常より手術範囲が広くなる場合
  • 高齢犬や持病がある犬で、術前検査や麻酔管理をより慎重に行う必要がある場合
  • 術後の内服薬やエリザベスカラー(患部を舐めないための首に巻く保護具)などの備品が別料金の場合

ペット保険は去勢手術に使える?

「加入しているペット保険で費用をカバーできないか」と考える飼い主さんも多いのですが、一般的にペット保険では去勢手術・避妊手術は補償の対象外とされています。ペット保険はあくまで病気やケガの「治療」を補償するものであり、去勢手術は病気ではない健康な体に対する予防的・選択的な処置と位置づけられるためです(ワクチン接種や健康診断、歯石除去なども同様の理由で対象外となるのが一般的です)。

そのため、去勢手術の費用は基本的に全額自己負担となり、後述する自治体の助成金制度の活用が主な費用軽減策になります。ただし保険会社や商品によって規定が異なる場合もあるため、加入中・加入予定のペット保険がある場合は、契約前後に補償規定を確認しておくと安心です。

3. 自治体の助成金・補助金

全国一律の制度ではなく、地域差が大きい

環境省がまとめている自治体調査(動物愛護管理行政事務提要)によれば、犬の去勢手術に対する助成は国や都道府県レベルの一律制度としては存在せず、各市区町村が条例・要綱に基づいて独自に実施している事業です。

また、同じ「不妊手術助成」という制度名であっても、屋外での繁殖が増えないために「メス(避妊手術)のみが対象で、オス(去勢手術)は対象外」としている自治体がある点にも注意が必要です。

地域による実施傾向の目安

助成制度の実施状況には、地域によって次のような傾向が見られます(令和6年3月31日)。

地域 実施傾向の目安
茨城県 全国的に見ても実施自治体数が多いエリア。定額2,000〜5,000円程度の助成が中心で、手術費用の一部(3分の1程度など)を補助する例も見られる
栃木県 定額3,000〜4,000円程度の助成を行う自治体がある一方、メス(避妊)のみを対象とし、オス(去勢)は対象外とする自治体も含まれる
北海道・東北 大都市部では非実施のケースが多く、一部の市町村が2,000〜5,000円程度を上限に継続実施している
首都圏・大都市部(東京23区、政令指定都市など) 飼い主のいる犬(特にオス)への去勢助成はほぼ廃止・非実施。制度がある場合も「飼い主のいない猫(TNR活動)」向けが中心

なぜ犬の去勢助成は限定的なのか

犬の去勢手術に対する助成が全国的に見て限定的である背景には、主に次の2つの行政上の事情があるといわれています。

係留義務による野良化リスクの低さ

犬は狂犬病予防法や自治体の動物愛護条例により、登録・鑑札の装着や係留(室内飼育・繋留)が義務付けられています。そのため野外での自然繁殖リスクが構造的に低いとされ、公費で去勢を推進する優先度が相対的に下がりやすい面があります。

「飼い主のいない猫」への予算シフト

多くの自治体で、動物愛護行政の予算は野良猫・地域猫の不妊去勢手術(TNR事業)に重点配分される傾向が強まっており、結果として飼い犬向けの去勢助成は縮小・限定される傾向にあります。

<メモ>

  • 野良猫は飼い主がおらず、誰にも管理されていない猫のこと。
  • 地域猫は地域の合意のもと、住民やボランティアが共同管理している猫のこと。

助成を受けるための一般的な要件

制度を実施している自治体で共通して求められやすい要件には、次のようなものがあります。

  • 狂犬病予防法に基づく犬の登録(鑑札交付)と、狂犬病予防注射済票の交付を受けていること
  • 申請時点でその自治体に住民登録があり、住民税などを滞納していないこと
  • 自治体が指定する動物病院、または地区の獣医師会に所属する動物病院で手術を受けること
  • マイクロチップの装着と指定登録機関への情報登録
  • 予算の上限に達し次第、受付を終了すること

申請の大まかな流れ(一般的な例)

  1. 自治体のホームページや窓口で、犬の去勢手術が助成対象になっているかを確認する
  2. 対象であれば、手術前に申請書を提出し交付決定を受ける(自治体により手術後申請の場合もあり)
  3. 指定された動物病院で去勢手術を受ける
  4. 領収書などの必要書類を提出し、助成金の交付を受ける

制度の有無・対象条件・助成額は自治体の年度予算編成によって変更されることがあるため、利用を検討する場合は必ずお住まいの自治体(生活環境課・動物愛護センターなど)の公式サイトや窓口で最新情報を確認しましょう。

4. 去勢手術のメリット・デメリット

去勢手術は「した方がいい/しない方がいい」と一律に言えるものではありません。ここでは獣医療の観点から、代表的なメリットとデメリットをお伝えします。

メリット

男性ホルモンに関連する病気の予防

去勢手術によって精巣を摘出することで、精巣そのものにできる「精巣腫瘍」のリスクがなくなります。また、加齢とともに増える「前立腺肥大」や、会陰部の筋肉が弱くなることで臓器が脱出する「会陰ヘルニア」といった、男性ホルモンが関与するとされる疾患のリスクを抑えられる可能性があるとされています。

性行動・問題行動の抑制

発情期のメス犬のにおいに反応した落ち着きのなさやマーキング行動、マウンティング、縄張り意識からくる攻撃性などは、男性ホルモンの影響を受けるといわれています。去勢手術によってこうした性行動由来の困りごとが軽減される傾向があります(性格そのものが大きく変わるわけではなく、個体差があります)。

望まない繁殖の防止

多頭飼育や脱走時の望まない繁殖を防げることも、大きなメリットのひとつです。結果として、飼い主が把握できない繁殖による不幸な命を減らすことにもつながります。

デメリット

麻酔リスク

去勢手術は全身麻酔下で行われるため、麻酔に伴うリスクがゼロではありません。健康な若い犬であればリスクは低いとされますが、高齢犬や心臓・呼吸器などに持病がある犬では、麻酔管理により慎重な対応が必要です。事前の血液検査などで全身状態を確認した上で、獣医師とリスクについてよく相談することが重要です。

体重増加・肥満傾向

去勢手術後はホルモンバランスの変化により基礎代謝が落ち、太りやすくなる傾向があるといわれています。食事量やフードの種類、運動量の見直しなど、術後の体重管理が必要になります。

不可逆的な処置であること

去勢手術は一度行うと元に戻すことができません。将来的に繁殖を考えている場合は、手術のタイミングも含めて慎重に検討する必要があります。

術後の管理負担

抜糸までの数日〜10日程度は、傷口を舐めないようにエリザベスカラーや術後服を着用させたり、激しい運動を控えさせたりする必要があります。まれに傷口の感染や、ストレスで食欲不振・下痢・嘔吐を発症する子もいるので、その際は動物病院へ相談しましょう。

5. 去勢手術を受ける時期の目安

去勢手術の時期について、明確に「この月齢でなければならない」という決まりはありませんが、一般的には生後6ヶ月前後を目安とする動物病院が多いです。これは、麻酔の適応と性成熟に伴う性行動が出始める前後のタイミングを想定したものです。

一方で、大型犬・超大型犬の場合は、成長期のホルモンが骨や関節の発達に関わっているという指摘もあり、小型犬よりも手術時期をやや遅らせることを勧める獣医師もいます。適切な時期は犬種や個体の発育状況によって異なるため、一般論だけで判断せず、かかりつけの獣医師に愛犬の状態を見てもらった上で相談することをおすすめします。

6. 当日〜術後の流れと注意点

一般的な去勢手術の流れは、次のようなイメージです(動物病院により手順は異なります)。

1 術前検査 血液検査などで全身状態を確認し、麻酔に耐えられるかを評価します。
2 絶食・絶水 手術前夜から当日朝にかけて、指示された時間から食事・水を控えます(麻酔中の嘔吐・誤嚥を防ぐため)。
3 手術当日 麻酔導入後、精巣を摘出します。手術自体は短時間で終わることが多いです。
4 覚醒・経過観察 麻酔から覚めた後、状態が安定していることを確認してから帰宅、または入院となります。
5 術後のケア エリザベスカラーの装着、傷口の確認、安静期間の確保、指示された内服薬の投与などを行います。
6 抜糸 数日〜10日程度で抜糸となるケースが一般的です(溶ける糸を使う場合は抜糸不要のこともあります)。

術後に食欲がない、傷口が赤く腫れている、元気がないといった様子が見られる場合は、自己判断せずに早めに動物病院へ連絡しましょう。

7. まとめ

犬の去勢手術の費用は、動物病院や愛犬の体格によって差があり、一律の金額を示すことはできません。多くの場合ペット保険の補償対象外となる一方、自治体の助成金制度は全国一律ではなく、地域や自治体によって実施状況に大きな差があります。まずはかかりつけの動物病院で見積もりを確認しつつ、お住まいの自治体で犬(オス)の去勢手術が助成対象になっているかを個別に確認してみましょう。

そのうえで大切なのは、費用だけでなく、精巣腫瘍や前立腺肥大などの病気予防、問題行動の軽減といったメリットと、麻酔リスクや体重増加、不可逆的な処置であることといったデメリットの両方を正しく理解することです。手術を受けるかどうか、また受けるタイミングについては、愛犬の性格や健康状態をよく知るかかりつけの獣医師とじっくり相談しながら、後悔のない選択をしてください。